「逆流性食道炎」とは、胃の内容物が胃の入り口を越えて食道に逆流し、胃の中は胃酸によって強い酸性となっているため、この酸性物質が食道の粘膜を障害する病気です。
逆流性食道炎は1990年以降に増加しています。その理由として日本人の胃酸分泌増加・食事の欧米化・ストレス社会等が指摘されています。逆流性食道炎は50歳以上で発症が増加します。逆流性食道炎は良性の病気ですが、逆流性食道炎の存在が生活の質を低下させ、さらには労働生産性の低下にもつながることが問題となっています。ですが、適切な治療によって健常者レベルに生活の質を戻すことができます。
世界的に使用されている逆流性食道炎の分類(内視鏡で見た炎症の程度)はLos Angeles分類があり、粘膜障害の広がりからグレードA~Dまでに分類され、日本ではこれに胃カメラでは変化のないグレードN、白く濁って血管が透けて見えないMW、境界がわかりにくい赤みのMRをグレードMとして加えた改訂Los Angeles分類が広く使用されています(図1)。
胃カメラでは粘膜障害のはっきりしない人でも4%前後は胃酸の逆流が発生しているといわれており、白く濁った粘膜が存在する理由の一つでグレードMに分類され、治療対象となりえます。
逆流性食道炎は食道内の過剰な胃酸にさらされることによって発症するため、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬の内服を2か月行うことによって軽症逆流性食道炎の90~95%、重症逆流性の80~85%は治癒します。
肝臓の薬物代謝酵素の遺伝子多型が各個人で異なるため、あるプロトンポンプ阻害薬で治療効果が十分でない場合は、他のプロトンポンプ阻害薬に変更するのが有効であることがあります。また、胃酸の分泌は食事によって起こるため,食後にプロトンポンプ阻害薬の血液濃度を最も高くすることが重要で、プロトンポンプ阻害薬の血液濃度は内服後2~3時間で最も高くなることを考えると、食前の30~60分前に内服することや、日本では一般的に食事の摂取量は夕食が最も多く、胃酸の分泌も増えることが多いため、夕食前に内服することも有効なことがあります。
プロトンポンプ阻害薬は胃で吸収されるのではなく腸で溶けて吸収するため、早く胃の外に出す効果を期待して消化管運動機能改善薬・漢方薬を追加することも有効です。標準的な量のプロトンポンプ阻害薬で治癒しない場合、倍量を内服すれば、より強力な胃酸分泌抑制を行えます。
2年間プロトンポンプ阻害薬継続後の逆流性食道炎の再発リスクとして、食道裂孔ヘルニア、重症例、ヘリコバクター・ピロリ陰性例、胃粘膜萎縮、非喫煙者、女性、低身長(150cm以下)等が報告されています。